「誰でもよかったわけじゃない、ってなんなんだよアイツ……」
三井は一人ごちて、学食での好きだといっていたA定食を食べていた。
の涙を見た日から、彼女を学食で見かけることはなくなった。
軽音部の部室からは、の歌声が聞こえてきて、学校にいることだけは分かって
三井は何となくホッとしていた。
「あれ、三井さん今日は歌姫は一緒じゃないンすか?」
「あ?いつも一緒な訳ねぇだろ」
「(嘘付け、数日前までいつも一緒だったじゃねぇか……)」
「何か文句あんのかよ」
「いや、文句なんてありませんけどね。喧嘩でもしたんすか?あ、それとも振られ……いってえ!!」
振られたのか、そう聞こうとしたリョータになんだかイライラして
三井はリョータの頭に拳を振り下ろした。
リョータは頭をさすり恨みがましい目で三井を見た。
「明後日の陵南戦、誘ったらいいじゃないですか。カッコイイとこ見せて
俺が悪かったって言ったら歌姫もイチコロっすよ」
「俺が誘っても来ねぇよ」
「そうっすかねぇ?(この人も鈍感だなぁ、歌姫といい勝負だな)」
「なにニヤけてんだよ、気持ちわりぃ」
「あのねえ、……アンタ諦めの悪い男なんじゃないんすか?あ、それはバスケでだけか」
リョータのその言葉に、三井は揺れていた。
この前のことを詫びて、試合に誘ってもいいのだろうか?
もう木暮に誘われて、二つ返事でOK出してるかもしれない、
だとしたら自分はとんでもないピエロだ。
木暮とが二人で仲良くしている所なんて、見たくもない。
突如軽音部の部室が開き、が出てくる。
三井は突然の出来事に絶句することしか出来なかった。
「三井、くん……」
「……」
「ごめん、急いでるから、」
「あ!待てよ!」
三井は何の作戦も練ることなく、気がつけばの手を掴んでいた。
公園でキスした日のような、色気のある状況ではなかったけれど、
三井があまりに必死にその腕を掴んでくるため、は逃げ出すことも叶わず、
三井のされるがままになっていた。
「三井くん……?どうしたの……?」
おずおずと尋ねるに、こんな顔をさせたくないのにと三井は
覆水盆にかえらず、とはこのことかと一人後悔した。
「あの、さ……この前は、悪かった……。気が立ってて……お前を傷つけるようなこと言って」
「別に、いいの……、私三井くんの迷惑も考えないで付き纏ってたようなもんだから」
「ちがうんだ!!」
三井は心の限り叫ぶ。
はその様子に目を白黒させていた。
「付き纏ってるとか、そんなんじゃないから。
……明後日……陵南戦なんだ。その前にちょっと話しあるから
そのとき控え室に来てくれるか?それとも、もう木暮から誘われてるか?」
「……誘われてないよ?三井くんに言われたのが初めてだよ?」
「そっか……、じゃあ、明後日待ってる」
「……うん……、あの、三井くん、誘ってくれてありがとう……。
じゃあ、私……練習に戻るから……」
「おう、頑張れよ」
を見送って、三井は覚悟を決めた。
相手が木暮を好きでも、例え木暮と両思いだったとしても、
明後日、に思いを伝えてみようと。
諦めの悪い男なんていうキャッチフレーズがこんなに似合う男はいない、
三井はの腕をつかんでいた右手をじっと見つめ、その手の平で拳を作った。
諦めの悪い男