― 悪い、……、キスしてぇ……
「……すっかり遅くなっちまったな、送る」
「あ、う、うん……」
あのあと、三井から告白されることもなく、が何かを発することもなく、
三井はを家まで送ると、気まずそうに、少し顔を赤くして帰っていった。
それから二人は一睡も出来ず朝を迎えていた。
月明かりの下でのキスから一夜明けた。
は必死で頭を回転させていた。
「そもそも今日は練習があるし、三井くんも決勝リーグで忙しいだろうから……大丈夫だよね」
「何が大丈夫なんだ?」
「きゃ!!……ああ、木暮くんかぁ……びっくりした」
下駄箱で声をかけられて驚きのあまり小さくではあるが悲鳴を上げ、
相手が木暮と分かると少しホッとする。
木暮は穏やかな雰囲気を纏っているため話しやすいし、はそののんびりした雰囲気は
嫌いではなかった。
「アハハ、ごめんな、三井じゃなくて」
「え!?な、な、なんで三井くん!?」
「え?いや、二人は付き合い始めたのかなと思ってな。良く一緒に帰ってるし」
「つ、つ、付き合ってなんかないよ!?うん」
「あれ?俺の勘違い?」
おかしいなぁ、などと言いながら、メガネの奥の目がキラリと光ったのは
気のせいだったのかなんなのか。
は何となく見透かしているその目に居心地が悪くなって
「こ、木暮くん!決勝リーグ……陵南とだったよね!?応援行くから!!」
「え?あ、ああ……皆喜ぶと思うぞ」
木暮はそれ以上三井との関係を聞くこともなく、ポンポンと肩を叩いた。
その様子を見ていた三井に、気付くこともなく。
二人が教室に向うのを三井は胸が締め付けられるような思いで見つめていた。
「(は、木暮のこと……、あー、俺カッコわりぃ……)」
そんな独り言とも、心の声とも取れる言葉を残して、
三井は二人とは反対側の廊下を歩いて自分の教室へと向った。
何日経っても、
部活の時間になっても、三井はと木暮が仲良く歩いている姿が
頭から離れなかった。
そんな邪念があるときのシュートの成功率は格段に下がる。
「三井!!やる気あるのか!!この戯けが!!」
赤木の怒号が飛べば、いつもなら三井も負けじと舌戦を繰り広げようとするが
日が立てばたつほど勢いも損なわれ、チームの心配の種になっていく。
「三井、どうしたんだ?」
そんな日が続けば、湘北のアメといわれる木暮の出番となり、
この日の練習後の部室で三井は木暮に声をかけられる。
正直、三井にとって木暮はバスケ部に戻ってからの理解者ではあるが
今は一番話したくない恋敵ともいえる存在になっていて
話しかけられるのも億劫だ。
「なんでもねぇよ、陵南戦までには調子戻すから気にすんな」
「と何かあったのか?」
「……は?」
「いや、最近一緒に帰ってないみたいだし、の様子もおかしかったしな」
「……よく見てんだな、のこと」
「ん?」
「……お前らお似合いだと思うぜ?ま、キスは俺が貰っちまったけどな」
「え?」
「でもよ、本命がいるのに俺にキスされるとかちょっと軽いんじゃね?あの女」
相手を悪く言って、木暮がに興味を持たなければいい、
そんな子供同然のことを思いながら三井は言葉を紡いだ。
三井は気付かなかった、その傍にが待っていたことに。
部室のドアを開けると、が立っていた。
三井の心臓が締め付けられる。
放ってしまった言葉は、元に戻せない。
「……三井くん……、ごめん、もう……付き纏わないから……」
三井は何もいえない、違うんだ、これは木暮への嫉妬だ、
そんな言葉も喉の奥に張り付いたように何も出てきてはくれなかった。
「……これだけは言わせて……私、誰でもよかったわけじゃない……」
「!!」
三井は一筋涙を流し、走り去って言ったを追いかけることも出来なかった。
誤解と戸惑い