「三井くん」
まだダムダムとボールが弾む音が聞こえて、が体育館を覗くと
下級生の紅白試合をチェックしている三井がを発見する。
「あ、。まだ部活終わんねぇんだよ、とりあえずその辺座って待っとけ」
「遅くなりそうなら、悪いし私帰るよ?」
「いいから待ってろってんだ」
「うん」
この日、軽音部のメンバーがこぞってバイトで、
は部室で軽く流してから早めに上がって体育館に向った。
体育館で目の当たりにした練習の様子が自分達のそれと違って
はただすごいと思うしかなかった。
それまでチェックに回っていた三井が交代だと声をかけ、
ゲームに加わり、その姿も普段の三井と違って真剣では
胸を高鳴らせた。
「すごいな……」
「あ、サンですよね!?湘北の歌姫!」
「あ、バスケ部の美人マネさんだ。たまに6組に来てるよね」
「え、美人だなんて!あ、二年の彩子です」
「彩子ちゃん、か。宜しく、よ」
ちょこん、と申し訳なさそうに座っているに、
マネージャーの彩子が気さくに話しかけた。
どうやら、三井に言われてらしいが、彩子も湘北の歌姫が
バスケ部に見学とあっては黙ってはいられなかった。
彼女もまたリョータと共に昨年の文化祭を経験し、の
ファンになったひとりなのだから。
「三井くんって上手いんだねー……バスケ」
「そりゃ中学MVPだし、湘北の飛び道具ですからね」
「へー、飛び道具って、カッコイイね。仕事人ッぽい」
「三井先輩が聞いたら、今の3割り増しの成功率になりそう」
「え?」
「だって三井先輩の彼女なんじゃ?」
「違うよ?三井くんに失礼だからダメだよ、そんなこと言っちゃ」
「(あのバスケしか頭に無い三井先輩が引き止めてるのに、彼女じゃない?)」
彩子はこの状況で、三井を哀れんだ。
(三井先輩、歌姫は全く気付いてませんよ?)
部活も終わりを告げ、部員達がこぞってのもとへ集まると
待っているのは質問攻め。
「ミッチー!!何故ミッチーにこんなキレイな女性が!!」
「三馬鹿でも三井センパイは女にモテるんすね……」
「なんだとこのキツネー!てか三馬鹿ってなんだあああ!!」
「でも湘北の歌姫と三井先輩がねぇ……」
「あれじゃね?湘北の七不思議に追加されんじゃね?」
「……てめぇら……さっさと着替えやがれ!!!」
顔を赤くした三井に一喝され後輩たちはへいへいと部室へ。
「、俺も着替えてくるし、待っとけ」
「うん」
バスケ部の噂は赤木や木暮から聞いた事があった。
問題児だらけで困っている、とも。
ぱっと見ればスポーツマンとはいえない派手な集団だが、
にとってはそこまで萎縮するほどの問題児ではなく、
それというよりは、子供のように見えた。
(赤木君がお父さんで、木暮くんがお母さんで、三井君は長男?かな)
たちまちの脳内で大家族が出来上がり、クスリと笑う。
「何ニヤけてんだよ」
「うわっ!びっくりした!」
「帰るぞ」
「うん」
二人は並んで校内をでた。
部室から覗かれていた二人は、後に騒がれていたことを知らない。
「やっぱり、ミッチーはナナフシギ認定だな!」
「見ろよアヤちゃん、三井さんが笑ってる!!キモイ!!怖いよ!!」
「キモイなんて失礼……いや、キモイわね」
湘北の七不思議