三井がを始めて送り届けた日から二人の距離は縮まった。

「三井くん?」
「よぉ、。お前今日は学食か、珍しいな」
「うん、たまにガッツリ食べたくなるでしょ?学食のA定食美味しいし」
「食い気ばっかじゃ、女としてどうなんだよ」
「あ、それ言っちゃう?」

美味しそうに唐揚げを頬張るの席の前に、
三井はどかっと腰を降ろす。


「これ、一個くれ」


三井はのA定食の唐揚げを手で摘まむと、大口を開けて
一口で頬張る。


「あ、三井くん!私の唐揚げなのにー!」
「全部食ったら豚になるぞ」
「もう!」


軽口を叩き合う二人。
つい何ヶ月前なら三井はの存在も知らず
考えも及ばなかったことだ。
三井はこの関係が心地よい、と感じて自然と口元が緩む。
けれど、この少女はなぜ、自分にも分け隔てなく接してくれるのか、
もともとの三井はスポーツマンだし、現在もそうなのだが
は三井のいわゆる黒歴史を認識していた。
三井はそれが不思議だった。


「なぁ、は俺のこと怖くねぇの?」
「え?何で?」
「一応俺、元ヤン」


三井は自分の事をホレホレと指差し尋ねる。


「全然怖くないよ。いまや見た目もスポーツマンだしね。背が大きいから威圧感があるだけじゃない?」
「そんなもん?なのか?」
「バンドしてるとね、ライブハウスとかもよく出るんだけど、もっと怖い系に会うよ。全身タトゥーで顔中ピアスの人とか」
「ぶっ、そりゃやべぇな」
「三井君は可愛いほう」
「可愛いいうな。唐揚げ全部食っちまうぞ」
「や、め、て!」


は唐揚げを死守するべく、口いっぱいにそれを放りこんだ。

「ぐ、う……ぐるじい……」
「お前ホント面白いヤツだな」
「うるひゃい」



「あれ、三井サン?学食なんてめずらしいっすねー。どうしたんすか」
「宮城……(チッ、めんどくせぇのが来やがったな)」

三井とが談笑する傍を、偶然通りかかったバスケ部の後輩、
宮城リョータが三井に声をかけた。

「メシ食ってんだよ、何か用か」
「見かけたから声掛けただけっすよ。……ってあああ!!」
「な、なんだよ」
「この人、湘北の歌姫じゃないっすかー!」
「あぁ?何だよ宮城も知ってんのか」
「知ってるも何も、俺去年の学祭のとき、この人のファンになっちまって。あ、俺2年の宮城リョータっす!」
「……あ、よ。よろしくね、宮城くん」


眉尻を下げ、リョータに笑いかけるを見て、
三井の中に木暮と一緒のときに感じたどす黒い澱のようなものが
再び降臨した。

「三井くん?どうしたの?」
「あー、。今日も練習終わったら待っとけ」
「え」
「送ってやるから」
「でも、ほとんど毎日悪いよ?」
「方向同じなんだから気にすんな」


おそらくこれは、三井から、リョータへのけん制。
リョータの想い人がマネージャーの彩子なのは分かっているが、
は『自分と仲が良い』と知らしめるため。
まるで小学生のような発想だが、とにかく威嚇。
オフェンスはディフェンスから、これに限る、と
三井は憮然とした表情を見せた。




学食、A定食