「木暮、お前六組だったよな?」
「ああ、俺と赤木は同じ六組だぞ?それがどうかしたか?」
「赤木はどーでもいいんだよ、それよりって知ってるか?」
「ああ、クラス同じだしな。がどうかしたのか?」


部活のあと、部室で着替えながら三井は同じ部活の仲間である木暮に
のことを尋ねた。


「どんなやつ?」
「ん、軽音部のヴォーカルしてるって湘北じゃ有名人だぞ?
湘北の歌姫、なんて言われてさ」
「(湘北の歌姫ねぇ、ま、確かに上手かったな)」


三井は先ほどのの歌声を思い出しウンウンとうなづいた。


「男とかいんの?」
「うーん、聞いたこと無いなぁ。けど人当たりもいいし、良い子だからもてるんじゃないか?」
「へぇ」
「もしかして三井、のこと?」
「バーカ、違ぇよ。ちょっと気になっただけだ」


やんわりと否定はしつつ、三井はの情報を脳裏に刻み込む。
部室を出ると、背中にギターを持った女が前を歩いているのが三井と木暮の目に入る。
そう、先ほどまで話題に上がっていただ。


「お、噂をすればじゃないか」


木暮が声をかけると、は振り返り木暮の元へ走りよる。

「木暮くん、部活終わったんだ?三井くんもさっきはどうも!」
「ああ、も遅くまで大変だな」
「どーも……」
「木暮くんこそ、決勝リーグも終盤でしょ?」


ズキン


三井の胸はきしんだ感覚に襲われる。
木暮とは同じクラスなのだ、仲が良くても不思議ではない。
しかしなんだろうか、この締め付けられるような、黒い澱が沈殿するような感覚は。


、こんな時間に一人で帰るのか?」
「うん」
「あ、確か三井は3丁目だよな?」
「ああ、そうだけど」
のこと送ってやれよ」


「はい?」
「あぁ?」


三井とは木暮の思わぬ提案に、顔を見合わせた。
当の木暮はニコニコして、まるで母親のような笑顔だ。


「俺はこれから寄る所あるし、と三井、家近いみたいだぞ?
女の子が一人で帰るのは危険な時間だし」
「でも、悪いよ」
「俺は構わないけど」
「三井くん?」
「おら、さっさと帰るぞ?」

三井自身も、先ほどあったばかりの女に何故そんなことを言ったのか、
分からなかったが、三井はまだその気持ちに気付くことなく、
に早く来いと促した



湘北の歌姫