俺はこの二年、本当に周りが見えていなかった。


三井寿はバッシュを肩に掛け、部活のためにバスケ部の部室に向かっていた。
途中には様々な部活の部室が、体育会系、文科系問わず問わず軒を連ねている。
いつもと変わらない光景、唯一つ、何かが違うとすれば
部室の一つからいつもは聞こえない歌声が聞こえてくることだ。


「歌……?」


その歌はまるでプロが歌うCDのような、それで居て機械的ではなく
熱のこもった迫力があり、三井は吸い寄せられるようにその歌声が聞こえる
部室の前にぼーっと立ち尽くしていた。


「誰?」
「うぉわっ!!」


密やかに見つめていたはずが、歌の主に気付かれたようで、
部室のドアが開き、一人の少女が顔を出した。
どこかで見たことあるような、無いような、三井はしばし考えながら、
コイツは何年だ?などと思いを馳せる。


「あ、三組の三井くん……?」
「あ?何で俺の名前」
「有名人だから」
「ああ、バスケか」
「……三年三組の、ヤンキーくんとして」


「ああ、そういうことな……」


三井はガックリと肩を落とす。
自分の知らない女まで、自分の黒歴史を知っているとは、と自然と顔も引きつる。
でも、この女と話すことは、不思議と嫌なものではなく、
もう少しだけ話していたいとさえ三井は思っている。


「なぁ、今歌ってたのってお前だよな?」
「え、そうだけど」
「……お前、学年は?何組?名前は?」
「三年六組の
、か。よし覚えた」


三井はニヤリと笑うとの頭を二回、ポンポンと撫で、体育館へと向っていった。



三組のヤンキー君