、今日俺んちよっていかねぇ?」
「え?」


そういわれたのは朝練後の部室だった。


「親父とおふくろが、その……お前に会いたいってうるさくてよ」
「お、三井サン!もう両親に紹介しちゃうなんて結婚でもする気ですか」
「うっせーんだよ!宮城!!」
「へぇへぇ、すんませんでした」
「とりあえず、お前ンとこの親がいいって言ったらでいいしよ」
「……後で聞いておく」


そして私は今、三井と共に三井の家に向っている。
母親は、お父さんにはうまく言っておくから、と快く言ってくれた。
そして、今度はウチにも連れておいでと。
手土産の一つも持たずにうかがっていいものか、はじめすごく迷ったけれど、
気にすることないといってくれた三井に甘えた。


「ただいま」
「寿!ちゃん連れてきてくれた!?お父さんももう待ってるわよ!」
「うぜぇ」
「あ、おじゃまします!三井くんの友人のです!」


私はこの3年間の体育会系部活動で培った妙に気合の入った挨拶をしてしまい、
あまりにTPOにそぐわないそれにはっとして、頬を染めた。
三井は横でげらげら試合かよと笑っていて、私は三井の脛をこっそり蹴った。
三井の家はいわゆる中の上といった家庭環境だった。
おっとりとした様子のおじさんと、てきぱきと料理をしたりかいがいしく動いているおばさん。
流石にごはんまでご馳走になることになると、何もしないわけにもいかず、
私はおばさんに何か手伝う事があれば、と切り出した。


「もう!寿!ちゃんに手伝わせてどうするの!!あんたが動きなさい!バカ!」
「うっせぇな!おい、。俺やるから親父の相手でもしとけよ」
「え、あ、うん……」


三井のおじさんは私が遠慮がちに座ると、にこりと笑った。
運ばれてくる料理を見ながら、今日は私が来るからと三井のおばさんは
朝から仕込みをしていたらしいという話をしたりして、
すこし申し訳ない気持ちになってしまった。
ごはんを食べて、ひとしきり、話していると、おじさんは優しい口調で
話し始めた。

「寿の彼女って聞いたからどんなヤンキーの女の子が来るかと思ったけど」
「俺の趣味はヤンキー女じゃねぇよ」
「……あはは」
「まぁ、それはいいとして。寿のこと、影でずっと支えてくれてたんだって聞いたよ、
こういうことは本来親の仕事なのに、ありがとう。二年分の部費も返すからね?」
「いえ!部費のことは私が勝手に……。それに、ウチの部費なんて毎月のお小遣いでまかなえる程度の金額ですし……。
私は……私は何も出来なくて……、二年間……バスケ部で待つしか出来なくて……」
「待っててくれたから、寿は戻れたんだと思うよ。この子にとって、バスケは息をするのと同じくらいの価値があるから」
「そうよー、寿ってばバスケ部に戻ったら本当にいい顔になったわ。ちゃんにいいところ見せたくて
頑張ってたのかもしれないわね?」
「う、うるせぇ!」
「でも、本当にうちの子でいいのかしら?こんなバカ息子で」
「私こそ、これからも、三井、くんの……彼の傍にいさせてもらってもいいですか?」
……」
「……な、なんて良い子!?ちょっと!寿!絶対に離すんじゃないわよ!?」
「うっせえな!おら、!部屋行くぞ」

腕を引っ張られて、私は軽く会釈すると三井の部屋に引きずられていった。


「ま、その辺座っとけよ」
「……ん」


出会ったのは高校一年のとき。
だけど、三井の部屋にも、三井の家にすら私は来た事がなくて、
今日初めて見た三井の部屋は、少し雑然としていたけど、
普通の男の子の部屋だと思った。
三井のいなかった二年で実は赤木の部屋や木暮の部屋で、騒いだり、
リョータの恋愛相談に乗ったりするためにリョータの部屋に行ったりは
した事があったけれど、どの面子も恋人としてではなく
友人や先輩として訪れていたため全く持って意識なんてしたことはなかった。
けど、三井は違う。
そう思うとなんだか気恥ずかしくなってきて、私はおもむろにベッドの下を覗いた。


「お、!!お前何してんだよ!」
「ん?エロ本とかあるのかなーって思って探してるー」
「やめろ!ねぇよ!!」
「あやしー……木暮の部屋にすらあったのに!三井の部屋にないわけがない」
「あぁ!?木暮のヤツ隅に置けねぇな……じゃなくて!やめろ、って!!」
「あ!ちょっと、変なとこ触んないでよ!」
「バカヤロウ!腕つかんでるだけだろうが!誤解招くようなこと言ってんじゃねぇよ!!」


バタバタと引っ張り合っているうちにバランスが崩れ、
私の上に三井が覆いかぶさるかたちになってしまい、二人の視線が絡み合っている。


「あ、み、三井……どいて……お、重い……」
「ッ!……あ、ああ……悪い、……」


『どいて』、『悪い』どう考えてもその言葉のあとには、二人で起き上がって
何もなかったようにするのが常識だと思う。
けど、絡まった視線は剥がせずに、どちらも身動き一つ出来なくて、
三井の顔が段々と私の近くに寄ってきて、
二人の心臓の音が、きっと五月蝿いくらいに鳴り響いている。


「キスしてもいいか?」
「……あ、えっと……でも……」
「心配すんなよ、それ以上はしねぇよ。お前だけは、大事にしてぇんだ」
「変な気使わせて……ごめんなさ」
「謝んな、けど、お前の心の準備が出来たら……ちゃんと教えてくれ。
そうだな、から、キスしてくれよ」


唇が触れそうな距離で、そう言われて、


「わかった」


私ははにかんでそう答えたら。
あとはもう吸い寄せられるように、私たちはお互いの唇を貪った。


















三井家探訪