「安西先生、お加減いかがですか?」
私はお見舞いの品を持って安西先生の下へ。
病室に入ると安西先生と奥さんがのんびりと談笑していた。
こんなにのんびりとした時間を笑顔で過ごせる夫婦って素敵だ。
私はそんなことも思いながら奥さんにも笑顔で挨拶した。
「あら、さん。今日は一人?」
「え?」
「フフッ、三井くんは一緒じゃないのかしらと思って」
「あ、いや、アイツは今日は……えっと、自主練で」
三井の名前がでるだけで、正直ドキッと心臓が跳ねる。
付き合いだしたとはいえ、三井の名前が出るだけで心臓がおかしくなりそうだ。
「ほらほら、くんが困ってますよ?」
「ふふっ、ごめんなさいね」
「あ、いえ……」
私ははにかみながら笑った。
「それで、今日はどうしたのかな?」
「あの、合宿メニューを私なりに考えてみたんです」
「ほうほう。見せてください?」
「はい!」
私はカバンからメモを取り出し安西先生に渡した。
赤木はゴール下の攻撃のバリエーションを増やすこと、
木暮はフィジカル面と外のシュートの強化。
三井はとにかくスタミナ一辺倒ひたすらこれ。
流川もスタミナ強化、それから相手を信頼してパスを回すこと。
リョータはミドルレンジからのシュートの強化でシュートもこなせるポイントガードにすること。
桜木はジャンプシュートの精度を上げること。
他の部員に関しても、事細かにとにかく誰が出ても良いように
チームのレベルを底上げ出来るように考えた。
「うんうん、良いと思いますよ。部員をよく見ているメニューですね」
安西先生に褒めてもらえてホッとする。
「桜木くんは私が見ましょう」
「はい!」
「くん、キミは本当に3年間マネージャーとしてよくやってくれましたね」
「え……やめてくださいよ、まだ引退じゃないんですから」
「忘れていませんよ、キミが1年の時、先輩の部員に放った言葉」
―――バスケ経験も無い女が、偉そうなこと言うんじゃねぇよ!!全国なんて行けるわけ無いだろうが!
―――経験は無いです!でも、私は諦めません!!私にしか出来ないことを考えますから!!
―――どうせ三井狙いで入ってきただけだろ?その三井もいなくなっちまったけどな
―――三井は戻って来ます!赤木と、木暮と、あとは三井が戻ったら全国に行くんです!
―――吠え面かくなよ!!
「驚きましたよ、くんの口からあんな言葉が出るなんて。
同級生を馬鹿にされたような気持ちになって、悔しかったのだろうと、そう感じました」
確かそんなことを言ったような気もする。
口を開けば全国制覇、って言う赤木や木暮、そして三井の目標に感化されたから。
三井は途中で消えちゃったけど、それでもまた戻ってくるって信じてたから。
だから私は今まで以上に必死でバスケを勉強した。
得る物は知識だけだったけど、バスケ部を守りたい一心で、必死になった。
赤木も木暮も私の様子が尋常じゃないと、どこか不安そうに見ていたけれど、
そんなことどうでもよかった。
「くんが私の家まで来て、とにかくバスケに関する本を貸してくれといいにきたときは驚きましたよ」
「あう……、その節は無礼なマネを……」
「ホッ、ホッ、ホッ。いいんですよ。
キミのそういう思いが、赤木君や木暮君に伝わって……そして今や三井君をも引き戻した」
「あ、いえ、三井が戻ってきたのは先生のお陰です。少なくともあの時、私の言葉は届かなかった……」
「"外からのシュート強化=v
「え?」
「キミの立てる全国で戦うための戦略は、いつも三井くんが戻ってくることを想定していましたね。
……よかったですね。彼が戻ってきて、キミの隣を歩く日が来て……」
安西先生、それは反則ですよ。
そんなこといわれたら、泣けてきます。
「はい……!」
私はそう言って涙をごしごしと拭った。
昔話をしよう