試合に勝って、インターハイ進出が決まって、いつもの帰り道もなんだかキラキラ輝いて見える。
私と三井はみんなの一番最後尾を、少しだけ遅れて並んで歩く。
「三井……、全国だよ」
「ああ」
「信じられない」
「とりあえずつねってみるか?」
「やめてよ、バカ!」
前ではみんなが騒いでる。
これから安西先生に報告に病院に押しかけるつもりなのだ。
みんな楽しそうにして、桜木と流川は相変わらず喧嘩ごしで赤木に殴られている。
「さっき、赤木たちと話してたみたいだけど、何話してたの?」
「んー……」
「木暮に聞いても、赤木に聞いても三井に聞けっていうの、私に隠し事なんて10年早いんだけど」
「ま、いろいろ……湘北の親父とお袋について?とか?」
「なにそれー、言う気ある?」
「ああ、やっとお前にいえるからな……」
そういうと、三井はみんなに気付かれないようにそっと、私の手をとった。
少しだけ驚いたけれど、三井がすることは怖くない。
私の隣に、三井がいると安心する。
二年間という、ポッカリあいた私の心の隙間に、三井はいともたやすく侵入してくる。
ああ、私は三井がすきなんだな、と思える。
「三井?」
「インターハイが決まったから言うんだからな。一回しかいわねぇからな」
「うん」
「俺はが好きだ……全国行けたら絶対言おうと思ってた」
「……もっと早く連れて行ってもらう予定だったんだけど……」
「う、悪かったよ」
「冗談だよ……」
「で、返事は」
「……あ、えっと……私もスキ?かも……?」
「俺に聞くなよ。まぁ、これから、もっと俺に惚れさせてやるから、覚悟しとけ」
「うん」
「仙道でも、流川でもなくて……俺だけ見てろ」
「……うん……」
私達は手を繋いだまま、みんなに気付かれないように本当に軽くキスをした。
触れるだけ、すぐに顔を離してはにかんだように笑って、
やっぱり、三井のこと、好きなんだろうな私、なんて思って。
「うわ!おいリョーちん!ミッチーがさんにキ、キスをしてるぞ!!」
「なんだと!?花道、彩ちゃん!セクハラだ!!三井サンからサンを守るぞ!!」
「アヤコサン!ハリセンを!!早く!!」
ばれないと思っていたのに、桜木はどこに目をつけているのか。
その情報は瞬く間に全員に知れ渡り、そこからはリョータや彩子からの
口撃が始まる。
「サン!三井サンに脅迫されたんッすか!?キスさせないとまたバスケ部潰すとか!そうとしか思えねぇ!」
「なにぃ!?何ならこの桜木がまた洋平たちを呼んでミッチーにオキュウをすえて……」
「三井先輩!キスはもっとムードっていうものがですねぇ、ああもう!これじゃあ先輩がかわいそう」
「誰が脅すかってんだよ!おら!てめぇらあっち行け!しっしっ」
三井は私の手を離さずに、言う。
私は一人笑う。
「センパイ、三井先輩に飽きたらどーぞいつでも……」
「流川ー!どさくさにまぎれてふざけんなてめー!」
「まだ諦める気ないんで。隙があれば攻めるッス。オフェンスの鬼なんで」
「くそッ、ったくテメェら気が抜けねぇな」
こんなに皆からからかわれても、繋いだままの手をじっと見つめて
嬉しくて笑った。
「、安西先生にも……」
「うん、わかってる」
皆で安西先生を胴上げして。赤木たちが気を利かせて部員を連れ病室を去り、
私と三井は、二人で病室に残った。
「おや、三井くんもくんも、どうしました」
「あ、あの!じ、実は安西先生にご報告がありまして」
「三井、どもりすぎ」
「お、おう」
安西先生の奥さんが私達を見て、優しい表情で笑っている。
「実は、俺と……その、付き合うことになりまして」
「ほう」
「まぁ素敵!」
「俺は、先生にも、バスケ部にも迷惑をかけたので……、部員同士っていうのもありますし
こういうことは安西先生にきちんと報告しておきたくて」
「ほっ、ほっ、ほ。いいんですよ、三井くん。そんなに気を遣わなくても」
「いつからお付き合いされてるの?」
「あ、いえ、あのさっき……全国行きが決定したので……告白して……その、」
「うふふ、インターハイが決まって告白だなんて、ロマンチストなのね、三井くん」
「コイツと1年のとき約束してたんです、全国に連れて行くって」
「ほっほっほ、そうですか、では約束が果たせて何よりでしたねぇ。
全国でも、皆で一つでも多く勝ちましょう。そのためには三井くん、君の力が必要ですよ?」
「ウッス!」
安西先生も、メガネの奥に優しい笑みを称えていた。
まるで、こうなることを分かっていたんじゃないだろうか、そう思えて
私はマジマジと安西先生を見つめる。
「三井くん」
「はい!」
「私からは一つだけ、……一生懸命に愛してあげなさい、そして幸せにしてあげなさい」
「はい!」
そんな二人の会話に私は少し気恥ずかしくなって、俯いた。
隠れてキスをしよう