決勝リーグの初戦は海南大付属だった。
本当に、勝てるかも知れない。この常勝軍団に。
うちの問題児軍団が、勝つのかもしれない。
それほどまでに、試合は白熱した物になった。
これまで、私はこの舞台に皆が立っている姿すら予想できていなかった。
でも、今、私達はここにいる。
全国制覇の夢が叶う位置に、私達はいる。


けれど、勝負の世界は厳しい。
桜木の痛恨のパスミスにより、痛い一敗、黒星スタート。
彩子が部員達にこの危機を視覚的に感じ取ってもらおうと、「がけっぷち」の筆書きを飾る。
部員達も気持ちの切り替えをはじめ、段々といつもの雰囲気に戻りつつあると思う。
でも、いつも元気なあの子の声がそこには無い。


「おい、。桜木は」
「赤木……1年の教室にも行ったんだけど……よーへーくんも会ってないって……」
「まだあのパス気にしてんのか、あのバカは」
「そう言わないの、三井。まあその辺は晴子ちゃんにお願いしてる。
あの子を動かせるのは晴子ちゃんくらいだし」


ちょっと前まで、バスケのバの字も知らないただの問題児だった桜木。
でも、今じゃムードを作ってる。
あの子がいなきゃ、なんだかみんなの気分がいまいち乗らないことも。
まるで、三井がいなくなったときみたいなそんな重苦しさが、私にのしかかった。


部活も終わると、流川が話しかけてきた。



センパイ、ちょっと自主練付き合ってもらってもイイッすか?パス出し……」
「別に構わないけど、私じゃ簡単なのしか出来ないよ」
「とりあえず俺が取れるボール出してくれればそれでイイッす。
センパイに宮城センパイみたいな技術は求めてませんから」
「なんなの!喋ったと思えば、一言多い!ノールックとかやってやる!!」
「そんなのセンパイには絶対出来ねーっす」
「やってやるってのよ!ほれ!ノールックパァース!」
「言ったらノールックの意味ねぇし……」


そう言ってパスを出すがそのボールは思い描いた方向とは全く逆の方向へ。
テン、テンとボールは虚しく体育館の床に弾む。


「……なかなかのヘタクソ、キョーミ深い(なんかどあほうな行動なのに可愛い……)」
「い、今のは失敗だよ!!うるっさいな!」


それから一時間ほど、みっちり練習に付き合って、私達は部室に戻った。
暗いくらい部室にそれは暗い暗い桜木花道の姿があった。


「っ、桜木、ちょっと!びしょ濡れじゃない!」
「何やってんだ、どあほう……」
「……ルカワ!!」
「……顔かせ」
「流川、桜木もちょっと落ち着いて?」


二人は私の制止も聞かず、再び体育館へ。
そのあとは血で血を洗うような殴り合いの連続。
俺のせい、いや俺のせいだ、などとお互いが海南戦の敗戦を
自らのせいにして殴りあう。
男は殴り合って理解するもの、事実三井がそうだったし……。
けれど、こいつらの自分のせい攻撃には次第に腹が立ってきた。
センパイ無視してんじゃないわよ……。



「こらーーー!!もうやめなさいーーー!!」
「ぬ」
「む」
「自分らのせいだ!それを言ったら海南戦のスコアが変わるの!?
変わらないでしょうが!だったら明日からの練習にその悔しさを当てろ!
それが出来ないなら安西先生に頼んであんたら二人スタメンから外す!!
後ろばっか向いてるヤツは今の湘北バスケ部には必要ない!!前を見なさい!!」


「……」


「分かった!?」

「……ウス……」
「……ハイ……」


翌日、桜木は赤坊主となって、バスケ部に戻ってきた。











雨降って、地固まる