「木暮、みんなは?」
か、……あの激闘のあとだ、よく寝てるよ」
「そっか」
、ここは任せていいか?俺らは彩子たちと先に戻ってるから」
「了解、適当に起こして帰らせるから」
「すまないな」
「いいわよ……、ねえ、木暮。見えてきたね、全国が」
「ああ」

私は木暮と会話を交わすと、控え室に入った。
控え室にはフル回転の活躍を見せてくれた5人がぐっすり眠っていた。
翔陽に勝利を収め、湘北高校はとうとう決勝リーグに駒を進める。
2位以内に入れば、インターハイへの切符が手に入るのだ。
赤木や木暮、三井が夢に描いてきた全国という舞台が手の届く所まで来ている。


「フフッ……みんな、お疲れ様」


私は小さく今日のみんなの活躍を労う。
あの激闘のあと、もう少し寝かせてあげたい。
私は一先ずジュースを買いに行こうと控え室を出た。


「あ、皆の分も用意しておかなくちゃね。ポカリでいっか」
さん、湘北勝って良かったですね」


自販機に着くと後ろから声をかけられた。


「あ、仙道くん……。見てたんだ、ありがとう」
「決勝リーグで当たるの楽しみですよ」
「そうね、でも、今度はうちが勝たせてもらうけど」
「こっちも負ける気はありませんよ?」


きっと今私達を見た人たちは腹の探り合いをする図にひいているんだろうな。
赤木に言われた事がある、バスケ以外のところで
あの飄々とした仙道と渡り合えるのは多分私だけだって。
そんなことを考えていると、仙道くんが口を開いた。


さん、お願いがあるんですけど」
「何?」
「もし俺らが、決勝リーグで湘北に勝ったら、さん……俺のモノになって?」
「え?」
「1年前からモーションかけてるのにって言いましたよね?俺本気ですよ?
そろそろ本気にならないと、敵は一人じゃないわけですし」


仙道くんは自販機に手を付き、私の退路を絶つ。


「ん?まだ……何か、用?」
「え?ああ、もう少しだけ、さんを見ていたいなぁと」


こんな風には向き合ったこと無いから分からなかったけれど、でかい……
私は引きつり笑いを浮かべながら思う。


「仙道くん……あの、私戻らなきゃ」
「帰したくないなぁ……湘北の連中の所には。このまま奪って俺だけのモノにしたい」


唇が触れそうな距離に私の心臓が跳ね、肩が震える。
キスされる……?


「ちょ、待って、仙道く……」
「待てるわけ無いじゃないですか。……待ってたら、『誰かさん』に取られますし」


誰かさんって誰だよ?そんなことを考えていた瞬間、
私の脳裏に浮かぶのは三井だった。
どうしよう、三井……助けてよ……
そう思って、目をぎゅっとつぶると、私はまた別の腕に引き寄せられた。


「おい仙道、うちのマネージャーになんか用か?」
「お、ナイトの登場ですか、三井さん。
さんとすこーしお話させてもらってただけですよ。今後のことをネ」
「今後だぁ?用が済んだらとっとと帰れよ。は忙しいんだからな」
「あーあ、せっかくいい雰囲気だったのになぁ。じゃ、さん。考えといてくださいね?」


仙道くんはいつも通りの爽やかな笑顔を私に向け去っていった。
キスされる寸前、仙道くんに『オトコ』を見た気がして、一瞬心臓が跳ねてしまったこと、
私は三井には言えそうになかった。


「……起きたんだ、三井。大丈夫?」
「俺の事はどうでもいいんだよ。それより、お前仙道と何話してたんだよ」
「コクられた……?っぽい……?」
「俺に聞くな、バカ」
「……決勝リーグで湘北に勝ったら、俺のモノになってって言われた」
「な!?バカヤロウ!完全なる告白じゃねぇか!!」
「……負け、ないよね……?」


私は不安げに三井を見た。
負けたら私達は引退。
それから、仙道くんのモノになる?
色んな事態がいっぺんに起こりすぎて、頭がパンクしそうだ。


「……当たり前だ。それより先に海南戦だろーが。全勝して全国行くんだからよ」
「うん」

三井は私の頭をグチャグチャに撫で回した。
三井の言葉が頼もしくて、私は目を細めうなづいた。








誰のもの?