、ちょっといいか」

私のクラスに昼休みにやってきたのは三井だった。
三井が教室に来たことで、ファンの子の悲鳴と、元不良の三井におびえる悲鳴と
二つの相反する声が聞こえる中、名前を呼ばれた私はドアまで駆け寄った。
相変わらず三井のファンの子の視線は痛かったけれど、マネージャーなんだから
話すことくらいあると割り切って私はどうしたのと尋ねた。


「部活終わった後でちょっと出てこられるか?」
「今日は大丈夫だけど……どうしたの?」
「病院に……」
「膝?もしかして何か違和感あるの?」


一年のとき三井は膝を壊した。
それが原因でバスケットから遠ざかった過去もある。
何か違和感を感じているのだろうかと私は少し心配になって
三井を見上げた。


「いや、心配すんな。検査だ、一応見てもらったほうがいいだろ」
「うん」
「んな顔すんなよ」


三井はにっと笑うと私の髪をクシャっと撫でた。
部活が終わる頃にはもう夜も更けていて、三井と病院に向いながら
その手をとった。

「ッ!!?」
「……きっと大丈夫だよ、膝……。心配いらないよ、私がついてるから」
「……ありがとな、……」


きっと少しだけ不安だったのかもしれない。
三井はプレイ中、膝のサポーターが手放せない。
本人はお守り代わりだと笑っていたっけ。
例え完治していても、これからもきっとそうだろうけど。
私がついていくことで、少しでも、三井の力になれればいい、
一年のときから、三井を支えるのは自分だと思いたかった。
三井は私が握った手を振り払うこともせず、ぎゅっと握り返した。


「もう大丈夫、ちゃんと治ってるよ」
「……よかったね、三井……」

医者から言われた前向きな言葉に、私も三井もホッとして笑顔をこぼした。
病院から出ると三井は少しだけ病院のほうを振り返って

「もう、来ることはないと思ってたんだけどな……」
「三井、もう、大丈夫だよね?膝治って、これからどこにも行かないよね?」
「……ああ。これから強豪とどんどん当たってくんだぜ?俺がいなくなったら大変だろうが」
「そうだね」


そんな会話を交わして歩道を歩いていたときだった。
少しうるさい五月蝿くエンジンをふかすバイクが私達の前を通り過ぎ
そして私達の姿を確認するとそのエンジン音は停止し
三井の顔色が変わった。


「鉄男……」
「三井か……」


バイクの主は、バスケ部襲撃の時に体育館に現れた「テツオ」と呼ばれた男だった。


「何だその髪、スポーツマンみてぇだな」
「……」

三井はその言葉に何も言わなかった。バスケ部に戻って
念のために膝の検査をしてそんなことを伝えていた。
テツオという男が私を一瞥し、


「お前、三井に飛び掛った女だったな。なんだ、三井お前こんな女がタイプだったのかよ」、


タバコを吹かしながらのどの奥で笑うテツオに、私はムッとして


「……アンタなんかにこんな女呼ばわりされたくない!」
「まぁ、そう怒鳴るなよ、もうお前らに手出しするつもりはねぇ」
「当たり前でしょ!?手出しして来たら桜木軍団呼ぶわよ!!」
「おーおー、威勢のいい女だ」

「……でも、いい女じゃねえか。嫌いじゃないぜ?お前とお似合いだよ、三井」
「あ、あんたに言われたとこで嬉しくも何ともないし!!」
って言ったか、アンタ」
「だったら何よ」
「三井に飽きたら俺んとこ来いよ。心身ともに面倒見てやるぜ?」
「おい鉄男!」
「ケッ、冗談だよ」


そこまで話すと、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ始めた。
テツオはノーヘルで夜の街に消えていった。

「じゃあな、鉄男……」

三井はそう呟くと私の肩に自分が着ていたジャケットをそっと掛けてくれた。

「まだ夜は冷えるしな……」
「うん」
「……、俺は大丈夫だ、戻らない……、俺の居場所は、あそこじゃなかった……」










居るべき場所