「三井、今日なんだけど……」
「……」
「ねぇ!無視しないでよ!」


放課後の部活の時間になっても、三井は私と口をきくどころか、目さえあわせてくれない。
朝、剃刀で切った指先がずくずくと痛む。
私の心臓もずくずくと痛む。


先輩……三井先輩と何かあったんですか?」
「彩子、ごめ……ちょっと、トイレ行ってくる」
「あ、先輩!!」


心配する彩子の声もそこそこに、私はトイレにこもった。
苦しい。心臓静まれ。
三井はどうして無視するの?


「三井……なんで……?」


堰を切ったように、涙が溢れ出した。
その瞬間、トイレのドアを飛び越え。私の頭の上からホースの水が撒き散らされた。
体中が濡れそぼり、前髪からは水が滴る。


「バーカ!ブスの癖に三井さんに色目使っていい気になるなよ!剃刀は警告だからね!!」


あざ笑う声が聞こえてくる。
朝の上履きに剃刀仕込んだ犯人はこいつらか。
そのせいで私は三井に無視されて、水仕事で大変なのに指を痛めつけられて、こんな思いをしてるのか。
私は頭に血が上り、トイレを出て行く女性とたちを追いかけると水に濡れたままつかみかかった。
勢いあまって私はその女を押し倒すような形で馬乗りになった。


「ふっざけんじゃないわよ!!影でコソコソ……やってくれるじゃない!!」


場所は体育館裏。
皆驚いて私を見ていた。
赤木も問題を起こすなと怒鳴っていたけれど、私の尋常でない様子を見て口をつぐんだ。


「私はなにいわれても平気!」
「私はなにされても平気!」
「三井が私を無視しても、私は三井と友達で居ることをやめない!!」
「ブスでも、バカでも、三井が私を嫌いでも!!私はやめない!!覚えとけ!!」


三井も、私の醜態をしっかり目撃しているようだった。
それでも、とまらなかった。
まだ三井の傍にいたくて、せっかく戻ってきてくれた
三井の傍にいるのは自分であって欲しくて。



……何言って……」
「三井先輩、先輩にあそこまで言わせて、三井先輩は子供みたいに無視ですか?
先輩、学生新聞にあることないこと書かれてから三井さんのファンから
嫌がらせうけてるんですよ?まぁ、そういう連中の中には流川のファンもいますけど……」


彩子が三井を睨んでいた。
三井はすぐさま私の元へ駆けつける。


「おい、。そのくらいにしてやれよ」
「離して三井!!」
「落ち着け!!!」


三井は私を抱きしめた。
きつく抱きしめられて、三井のTシャツにも、私についた水滴が
少しずつしみこんでいく。


「おい、お前ら帰れ」
「み、三井先輩、私達は……三井先輩が……」
「コイツは……、は俺の大事な女だ。今度何かやったら、……殺す」


三井が元ヤン宜しく脅しをかけると後輩の女の子たちはすごすごと帰っていった。
皆が見ている前でも、三井が私を放す様子はなく、
私は少し顔を上げ、三井を見つめた。
流川が少し遠目から、射抜くような視線で私達を見ていたけれど、
私も三井も、何となく離れる事が出来ずにいた。


「三井が……喋った……」
「クララが立った的な言い方すんな。……悪かったな、俺知らなくて」
「……三井に、何も負担かけたくなかった……、だから言えなくて……」
「……ああ、でもこれからは俺に言え!いいな?」
「もう無視しないで。そういうのやだ」
「ちょっと気が立ってたんだよ、悪かった……」
「三井、私着替えてくる」


私は三井から離れて、すっと息を吸い込み


「三井!ありがと!!私のこと大事な女友達って言ってくれて!!」


三井は唖然としていたようだったけど、
私は笑ってそういった。
体育館では私が着替えている間に、三井が哀れまれていたのはまた別の話だ。


「三井先輩……なんか、大事な女『友達』って……付け足されてますよ?」
「いうな、彩子。皆まで言うんじゃねぇ……」
「当たり前だ……どあほう……(そう簡単に渡してたまるか)」
「なんだとテメェ!言うに事欠いてどあほうとは何だ!流川ーーー!!」






女の意地