やっぱり流川に助けられてから呼び出しは減ったけれど、
確実に隠れ系の嫌がらせが増えた、気がする。
一昨日は下駄箱に行けば不幸の手紙がぎっしりで、恨み辛みのオンパレード。
読んでいるこっちはホラー映画の主人公のような気持ちにさせられた。
昨日は部活用に持ってきていたTシャツをずたずたに切り裂かれていた。
今日は一体何があるのだろう?私は上履きに手をかける。



「イタッ……!」



上履きを持つだけでは経験し得ない、いきなりの激しい痛みに私は思わず上履きを落す。
上履きのかかと部分に剃刀が仕込まれていた。
床にポタリと指から流れ落ちる血液が滴った。


「あーもう!私殺されるんじゃないの」
、どうした?」
「あ!み、三井!?」
「……お前、指……見せろ」
「こ、これは、あの、その……」


どう説明すればいいのだろう?
今は大事な時期、揉め事も、私達部員の仲が気まずくなることも
起こしてはいけない。
黙っていれば、バレはしないと思って油断していた。
慌てて私は後ろに指を隠す。
しかし頭隠して尻隠さずとはこのことだ、上履きをその場に落としてしまっていた。


「お前、これ……剃刀だよな?」
「……あ、うん。なんだろうね?不思議だね」
私は必死で取り繕う。
「誰にやられた?」
「いやー……何かよく分からないし、適当にあしらってれば大丈夫だから」


三井に心配を掛けたくない。



―あの人のこと、何も見てないセンパイに俺を殴る権利はありませんから


三井の頭の中に、何かが響いていたようだった。
苦虫を噛み潰したような、不機嫌な空気が流れて、
それでも私は本当のことを言う事が出来なかった。


「流川には言えて、俺には言えないことか」
「流川……?いや、そ、んなんじゃ、なくて……」
「ふざけんなよ、
「三井、ちが……」



ガン!!
と大きな音をさせて、三井は下駄箱を蹴飛ばした。



「俺には言えないことなら流川に面倒見てもらえよ」



あの襲撃の日でも見せた事のない、私を心から拒絶する視線を向けると
三井はすぐに目をそらし、そのまま教室へといってしまった。
三井が何を言いたかったのか、私にはまだよく分からなかった。
そして、なぜ、傷よりも、心臓が痛むのかも、よく分からなかった。







不可視感情