「さん、ちょっと来てもらえる?」
「(……またか)」
私はここのところ一年から三年まで、様々な人間に呼び出される。
残念ながら、告白などではなくて。
「三井くんに色目使うとかサイテー!!アンタ流川くんとか陵南の仙道君にも色目使ってるらしいじゃん!」
「うわー、最悪!ほんとに男だったら誰でもいいビッチなんだ!!」
「……別に色目使ってないって……」
いい加減頭が痛い。
一日何回皆の愚痴聞けばいいのだろう。
三井がバスケ部に戻って、人当たりがよくなって、もて出したのは知ってる。
でも、自分が振り向いてもらえない怒りの矛先を、別に彼女でも何でもない私に向けるのは
正直どうかと思うわけで。
「てか、私、ぶっちゃけ処女だけど」
「ふざけんじゃないよ!」
今日の相手は少々乱暴だ。
その辺にあった大き目の石を私めがけて投げつけてきた。
「……っ……」
痛みに耐えようとぎゅっと目をつぶる。
けれど、いつまで経っても私に痛みは訪れなかった。
ゆっくりと固く閉じていた瞳に光を入れると、漆黒のきれいな黒髪の後輩が
その石を受け止めていた。
「アンタ達、何やってる……うせろよ」
「流川君!!!」
今まで悪びれる様子すらなかった女たちが、罰の悪そうな顔をして
雲の子散らすように帰っていく。
「センパイ、怪我は?」
「だ、大丈夫」
「いつもこんなことされてるんすか?」
「い、いつもじゃないよ」
「三井さんと、あんな写真撮られたからだ」
「……う、何もいえません」
「……俺だったら、三井さんに文句言いますけど」
「いや、アイツのせいじゃないから、てか流川のことも言ってたよ、あの子達」
「俺はどうでもいい。三井センパイと違って、守るから。センパイのこと」
なんだ、今日はいつも以上にカッコよさげなことをよく喋る後輩だ。
「……教室まで送っていくっす」
「え、いいよ。正直、一人のほうが……」
「どあほう、放っておけるか」
「どあほうって、流川、アンタね!!仮にもセンパイなんですけど!!
アンタは高1、私は高3!Do You Understand!?」
「フン」
流川は私の手を引き、三年の教室へと私を連れて行った。
「三井センパイ、どーも」
「……流川!?と、……?」
「センパイ、アンタがセンパイのことを見ないなら、俺が貰います」
「……!!てめっ……なに言ってやがる!から手離せよ」
「あの人のこと、何も見てないセンパイに俺を殴る権利はありませんから」
そこまで言うと、流川は私の手を少しだけ強く握って、
気付く前にそれを弛緩させ私の手を離した。
「俺なら、好きなくせに二年も放っておかねぇし、何があっても守れるし」
「……ざけんなよ、流川……」
「どあほうにいわれたくねぇ」
流川と三井は私に聞こえないように、二三言交わすと押し黙って、
流川はため息をつくと帰っていった。
ヒーローは誰?