風邪は一日寝たらだいぶ良くなった。
熱は上がったけれど、一日だけ学校も休んで、部活も休んで惰眠を貪った。
いまだに三井が何故流川のことを聞いたのか、
心配してたからとは言えどうしていきなり抱きしめてきたのかの答えは、
私には未だに分からなかった。


「……ん?なんだろう……?」


学校に向うと、どうにも視線が痛い。
道行く湘北生が皆私のほうを見て何かひそひそと話している。


― 清純そうな顔して実はビッチなんだな
― 俺も一回ヤラらせてくれるかな
― でもあの三井のお古はなぁ


とかいう声が聞こえた気がした。
気にすることは無い、と普段通りに歩いていると、掲示板に人だかりが出来ていた。
頭二つ分くらい抜けて赤木と、その隣には木暮。


「あ!赤木、木暮!おはよう」
「あ、……。か、風邪はもう?」
「うん、もう大丈夫!てかどうした、の……?」
「おい!!」


赤木が私に掲示板には近づくなと忠告するけど、時既に遅し。
私は掲示板の学生新聞を読んでしまった。


「……なに、これ」



[ 三年三組、バスケット部の三井寿、、熱愛。
           保健室での密会と激しい情事の全貌 ]




「ぶはっ!!な、な!なんじゃこりゃあああ!!!」


私は思わず噴き出した。
見れば私と三井があの日保健室で抱き合った写真が掲載されている。
まぁ、確かに、この状況には覚えがある、否定はしない。
だがしかし、だ。
情事とはなんぞや。そんなものした覚えもない。
そもそも私は彼氏がいたこともなければ、キスすらしたことないのだ。
湘北生が私のことをやれビッチだ、ヤラせてくれるかなどといっていた意味が
ようやく分かる。
この学生新聞のせいだ。


「何でこんなことになってんのよ」


三井はいろんな意味で有名人、ヤンキーとして後輩のリョータをボコボコにしたり、
バスケ部に出戻っただのと話題性には事欠かない。
だから新聞部の連中があのことを三面記事扱いにしたがるのは何となく分かる。
しかし巻き込まれた私はたまったものではない。


、気にするな。仮にお前らが付き合っていたとしてもお前らはこんな所で
非常識な行動に出る訳が無いことは俺たちがよく知ってる」
「赤木……うん。私、大丈夫だから……。けど、三井は?アイツは大丈夫かな?」
「アイツのことだ、大丈夫だよ。さ、赤木、、部活行くぞ」


木暮が私を安心させようと、肩を叩く。
大丈夫といった手前口には出せなかったけれど、アイツは今大事な時期。
湘北バスケ部にとっても大事な時期。
付き合ってるわけでもないのに、あんな事書かれて勝手に貼りだされて、
アイツは大丈夫だろうか?
体育館に行くと、既にアイツは3ポイントラインから、何本もシュートを放っていて、
まるで気にしていないかのようだった。
私が体育館に入ると三井に声をかけられる。


、よぉ!」


三井はいつもの屈託の無い笑顔を私に向けた。


「なんかまずいことになっちまったなー」
「……いや、あの、私こそバスケ部もアンタも大事なときにごめん」
「……謝るな、別に犯罪犯したわけじゃねぇ。それに……『アレ』、俺は悪いとは思ってねーから」
「三井……」
「牽制にもなってよかったんじゃねぇの……?」
「え?」
「何でもねぇよ」


三井は私の頭をぐしゃりとなでた。
私が気にしてるかもと感じて、そんな態度だったのかと理解し、
私は目を細め、その手にされるままになる。
三井のファンと思しき女の子たちの悲鳴のような声が聞こえたけれど、
この際気になんかしなかった。
安心する大きな手。
誰の手でもこんな安心感が得られることは少ない。
流川に撫でられても、仙道くんに撫でられても、
嫌ではないけど、少し違う。
この感情にまだ名前は付けられない。









ゴシップ