三井が戻ってから一週間、もうすぐインターハイ予選。
「ちょっと差し歯のくせに!しっかりやれ!!」
「うっせーんだよ!!差し歯関係ねーだろ!!」
「じゃあ女男」
「もっとやめろ!!」
私は三井に罵声とも言える声援を浴びせてやる。
これが2年間皆を待たせた仕打ちだ。
みんなも少しずつだけど、三井の練習風景を見てあいつを認めてる。
人間性には問題ありだけど、バスケの腕だけは認めているんだ。
けど、もうすこしだけ、みんなと打ち解けきるには時間がかかると思うから。
三井はちょっとナイーブだし、何も考えられないほど何か打ち込んで、
何か声かけしていれば、変なことも考えないと思ったから。
「……センパイ」
三井を見つめる目を、呼ばれた先に向ける。
そこには相変わらず無表情な流川の姿があった。
無表情というよりは、なんだか少し不機嫌そうだったが。
「え?なに流川?また足つりそう?」
「……いや」
「じゃあ、どうしたの」
「……アイツ、センパイを突き飛ばした」
「え?」
流川の目が三井に向く。
その目はなにやらまだ先日の喧嘩が許せていないといった様子で。
「あのね、あれはあれ、これはこれ。わかる?」
「……ウス」
「三井の練習見ててあんたなら分かるでしょ?バスケに本気だって」
「……ウス」
「流川はあいつの仲間に殴られたもんね、すぐに許せるわけないと思うけど……、
チームメイトとして仲良くしてやって」
流川は私がそういうと、少し考えて
コクリとうなづいてまた練習に戻っていった。
私の知らない所で、三井と流川があんな会話をしていたなんて
私はまだ知るよしも無い。
「三井センパイ、1ON1おねがいします」
「おう」
「……センパイのこと突き飛ばしたの、俺許してませんから」
「お前……もしかしてのこと……?」
「アマいっすよ」
流川は三井が何か動揺した隙にアッサリと抜き去り、鮮やかなシュートを決めた。
ブランクがあったとしても、あの抜き去り方は華麗以外の何者でもなかった。
「流川!ナイッシュー!!なにアッサリ後輩に抜かれてんのよ!」
「うっせー!!これには深いワケがあるんだよ!!」
「どーせ2年のブランクが原因でしょ!」
「よーし、休憩だ!」
赤木の号令と共に、
休憩が入る。
「三井さん、アンタに「だけ」は渡さないっす」
「ほざいてろ」
レギュラーの座の話だろうか?
ポジションが異なる二人が、そんな話をするなんて、よっぽど
お互いを意識するプレーヤー同士なのかななどとのほほんと考えていた。
「ねぇねぇアヤちゃん、流川と三井サンって……」
「んー、面白いことになって来ちゃったわね」
「知衣子さん、相変わらずモテるなぁ……スゲー、どっちとくっつくかな?」
「知衣子先輩、自分の色恋には鈍感だから気付くかしら?」
「あ、それは言えてんな」
リョータと彩子のそんな会話が、私の知らない所で交わされていたようだった。
見えない戦い