「あー……重い。桜木か誰かパシってくればよかった」
テーピング用のテープにコールドスプレー、
ポカリ粉末を大人買いの勢いで買いこんで
私はひいひい言いながら湘北高校への道を歩いていた。
ビニール袋が食い込んで指が千切れそうな勢いだ。
「ゼェ……どこでもドア欲しいな……」
「大変そうですね?さん」
「あ、れ?仙道くん」
私の前に現れたのは先日の練習試合の相手、仙道彰だった。
3年間もマネージャーをしていたら
ある程度の人脈なんてものは出来るのものだ。
仙道くんは人当たりもいいから……まぁ若干の腹黒さは感じるけど、
1年前から割と仲良くさせてもらっていた。
「すごいですね、その荷物。俺持ちますよ」
「あ、でも悪い」
「いいんですよ、こんなのは男に任せておけば」
「じゃあ、半分こ」
「さんもなかなか頑固ですね」
「まぁね」
「そういうところも好きなんですけど」
「ま、またまたーご冗談を!陵南のエースがなに言ってんだか」
「え?俺本気ですよ、一年前からモーションかけてるのに分かりません?」
爽やかすぎる笑顔で笑われれば、
流石に何とも思って無くても心臓くらい鳴る。
「俺、諦めませんよ?彼氏、いないんでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
彼氏か。
別に男が欲しいなんて思ったこともない三年間だったな。
女子高生としては我ながら惨めな高校生活だと、自嘲した。
そしてその瞬間浮かび上がるのは
道路と反対を歩いている、アイツ……
え?歩いている……?
「うそ、三井……?」
「さん?」
「ごめ、仙道くん!私ここで大丈夫だから!!!」
仙道くんから半ば荷物をひったくるように取り上げると、
私はアイツが見えた方向に思い切りダッシュした。
火事場の馬鹿力というヤツだろう。
今は荷物の重さも感じない。
「ミツイ、ねぇ。……ま、どんなヤツでも諦めませんよー、っと」
仙道君の不敵な笑みを、私は見ることなく走り出した。
三井がいた。
もうすぐリョータが戻ってくる、そう言った彩子の台詞が頭を駆け巡る。
リョータが帰ってくるってことは、アイツも帰ってくる。
三井寿。
「三井!ま……まって!!三井!!」
私は必死で追いかけた。
けれどどんなに呼んでも、三井が振り返ってくれることは無かった。
「ハァ、ハァ……ッ、三井、何で……」
いつしか私の足は棒のように固まって動かなくなり、
その場に立ち尽くすしかなかった。
あなたの影