湘北高校で過ごす最後の年。
私はいつも通りの時間、いつも通りの道を通って体育館へ向う。
「、お早う」
「木暮、おはよー!」
「相変わらず朝から元気だな、」
「赤木もおっはよー!赤木ー、相変わらずの仏頂面だね、何とかしないと!」
ホラホラ笑ってーと、私は赤木の頬を思い切り背伸びして引っ張ろうとしたが、
とりあえず届かない事が分かり、チッと舌打ちをしそのまま3人並んで歩く。
「これは、地顔だ」
赤木はフンと私を睨みつける。
いつも通りの朝だ。
同級生で、私がマネージャーをしているバスケ部の仲間の
赤木と木暮と他愛ない話をして、そして、笑う。
3年間私はこうやって過ごしてきた。
だから大丈夫、そう思っているけど、時々ふと頭を過ぎる。
アイツはどこで何をしてるんだろうって。
2年前のこの頃には、アイツも一緒にこうして笑ってたのに。
「ちゅーっす!!先輩!!」
体育館のドアを開ければ1・2年が既に部活の準備をしていて
私達に気付くと、大きな声で挨拶してくれた。
2年のマネージャーの彩子の元に駆け寄り、ハイタッチで挨拶を交わす。
「おはよー!いつも桜木の面倒ご苦労さん」
「知衣子先輩、お早うございます。ちょっと変わってくださいよー」
「やだ、てか私バスケ経験者じゃないし」
「言うと思いました」
私はすでに練習を始めていた桜木花道と彩子の様子を横目で見ながら
スコアブックやあらかじめ洗濯していたビブスを取り出し並べていく。
「知衣子さん!見てください!!この天才桜木の上達振りを!!」
得意げに今まで吸収した基礎を圧倒的なハイスピード感で披露され、
逆に私の身体は疲労感を増す。
「はいはい。ってか、フンフンと鼻息荒いっての!変質者か!」
「そ、そんな!!この天才を捕まえて変質者だなどと!!」
「プッ……だからフンフン言うな!笑けてきて集中できないっ!」
自慢げに基礎練習をこなす桜木に適当に相槌を打つ。
適当にするのは、桜木を天狗にしないため。
桜木はきっと今後部を支えるプレーヤーになる(かもしれない)
と晴子ちゃんが言っていた。
実の所、私も、桜木のポテンシャルには実は大いに期待を寄せている。
だから、滅多に褒めない。
こういうタイプはしごいてしごいて、たまに褒めるから伸びるのだ。
何となく分かる。
陵南高校の練習試合で、桜木は多分一皮向けた。
桜木だけじゃない、みんなのやる気に火がついたと思う。
私はそんなことを思いながら、練習後に備えて
タンクにポカリを、そして冷たくしたタオルなんかを準備する。
マネージャーというのも実はハードな仕事なのだ。
「そうそう、知衣子先輩」
「何?彩子」
「アイツ、もうすぐ退院なんですよ」
「ホント!?リョータ戻ってくるの!?」
リョータは2年のPG。
訳あって現在は入院中だったのだが、彩子から戻ると聞かされれば嬉しいことこの上ない。
アイツが県予選に戻れなかったら正直戦い抜くのは厳しかったから。
私にとって空白の席は二つ、一つは宮城リョータの席。
そして、もう一つは
「あのバカ……どこほっつき歩いてるのよ……」
今は居ない、そしてこれからもきっと埋まらないアイツの幻影を
私は今も追っかけてる。
空白の席