陵南高校の文化祭、その後夜祭ではダンスイベントが執り行われる。
通称『ラストダンス』と呼ばれるものだ。
ダンスといっても、激しいストリートダンスなどではなく、
ただのダンスと侮る勿れ、その『ラストダンス』を踊った恋人は
永遠の愛を約束されているという、思春期真っ盛りな男女にとっては
何とも鼻息の荒くなるダンスイベントなのだ。
意中のヒトとラストダンスを踊るべく、皆の目つきが変わるのは、
この時期の陵南高校の一種伝統ともいえるものだろう。
「仙道くーん!ラストダンスのお相手は決まった?」
「ああ、まだだよ?」
「私と踊ってよー」
「んー、少し考えさせて?ちょっとね、イロイロ考える所があるんだよね」
仙道彰、学内一のモテ男といっても過言ではない。
ラストダンスのお誘いをおそらく学内一受けている男だろう。
毎日のように、誰かから誘いを受けては、それをやんわりと
保留するかのように見せかけ断る。
仙道はラストダンスの相手を誰にするのか?
仙道がまだ1年だったときは、彼は後夜祭に参加せず、
海で夜釣りを楽しんでいたらしい。
では2年になった今、どうするのか。
仙道彰に本命の女子はいるのか?
10月も末に差し掛かった文化祭直前、陵南高校の女子生徒の話題は
目下そのことだけだった。
「ねぇ、仙道?」
「ん?何、ちゃん」
「今日クラスの女子から聞かれたんだけど」
「うん」
「ラストダンス、どうするの?」
「へ?」
部活動が終了し、部室で着替えをするバスケ部新キャプテンである仙道に、
同じくバスケ部のマネージャーである知衣子は素朴な疑問をぶつけた。
クラスの女子が仙道と踊りたがってる、と付け加えて。
多少色気のある会話にもかかわらず、
方や、女の前でも難なく上半身裸を晒し着替える仙道、
方や、その様子に一切動じることもなく部誌をつづる。
不思議な空気が漂った。
「仙道はさ、好きな子いないの?」
「へ?」
「ラストダンスに期待かけてる子は多いでしょ、もし仙道に好きな子がいてさ、
なのにフラフラして誰も選ばないんだとしたら、仙道を誘った子達が可哀想」
「……ちゃん……?」
「それに、仙道が誘ったら、どんな女でもイチコロだと思うんだよねー、
学内一モテる男はやっぱ違いますねー。そんな仙道クンと同じ部活で
ちゃんはシアワセモノですよ」
「シアワセモノ、か。ちゃん棒読みだし」
「あ、ばれた?」
「バレバレだよ。
……好きな子は、いるよ。でも、ちょっとその子の真意が分からないって言うか……。
もしかしたら誘われちゃってるかもしれないし」
「え!?マジで!?あ、もしかして越野の妹!?越野の妹、超可愛いよね!
あ、それとも魚住さんのお姉さん!?いや、魚住さんのお姉さんは既婚者か!不倫!?え、不倫なの!!」
マシンガンのようにペラペラとまくし立てているに
仙道は少し驚いたように目を丸くして。
けれど、勝手に大暴走するを見て、ふっと笑って。
「そういうちゃんは?」
「え?」
「ちゃんは、ラストダンスの相手決まってるの?」
「いや、てか私モテないし……好きな人くらいは、いないことはないんだけど、その人結構モテるから」
「へぇ、……好きな男いるんだ?そういや、越野がちゃん誘ってみようかなって言ってた」
「は!?越野!そうだったのか!!かわいそうな越野クンの誘いを受けてあげようかね」
「でも、俺がやめとけって言っといたんだよね」
「ちょ、何で!!私のバラ色バスケ部ライフをどうしてくれんのよ!」
「"ちゃんは、時機を見て俺が誘うから諦めてくれ"って言った」
「……はい?」
「さぁ、というわけで誰かに先を越される前に言っておこうか」
ラストダンスはあなたと
(仙道の好きな人って……?私?)
(そうだよ、ちゃん好きってオーラ出しまくりなのに気付かなかった?)
(気付くわけないでしょ)
(うんうん、そういう鈍感な所も好きだよ。で、ちゃんの好きなのは越野?俺?)
(どっちも違うって言う選択肢はないの?)
(残念ながら無いなぁ)
(……どっちも好き)
(恋愛感情的にいうと?)
(……せんどー……)
(じゃあ、踊ってくれよね。ラストダンス)
(……うん)