朝ラッシュ時の大阪環状線は学生や社会人にとっての戦場である。
生きるか死ぬか、大仰かもしれないが、それが乗った者たちの
第一印象とも言えるべきものだ。
もご他聞に漏れずその洗礼を受けていた。


「(やっぱもう少し早く出るんやったわ……苦しい……)」


こんな時間に電車に乗るのは久しぶりのことだった。
は豊玉高校のバスケ部マネージャーで、インターハイ後に部を引退した。
いつもいつも始発近い電車に乗り学校に向かっていたため、
こんなラッシュを経験したことなどなく。


「(あー、もう!あかん!!今度からまた始発にしよ……)」


身動きのほぼ取れない中で、眉間に皺を寄せて
ひたすら目的地にたどり着くのを待ち続けた。
部活で何となく体力には自信があっただったが、
人いきれの中で酸素が薄くなっていたのか、少し気分が悪くなってくる。
苦しくて、呼吸の仕方も忘れてしまい、目の前が小さな光がちらつき始めた。


「なぁ、顔色悪いみたいやけど……大丈夫?」
「……え……あ、の……」
「自分、豊玉やんな?もう駅つくからしばらく、ボクにもたれとき?」
「……う……でも……」
「気にせんでええよ?」


声をかけられたときには、ほとんど目が眩んで誰が声をかけてくれたか
なんてわからないほどに目の前が真っ暗で、は不安になりながらも
その相手の肩にもたれかかる。
やがて駅のアナウンスが流れ、肩を抱かれては電車を降りた。


「ポカリ、飲む?」
「……ありがとう、ございま……あれ、大栄の土屋くん?」


が顔を上げると、そこには豊玉バスケ部のライバル校
大栄学園の土屋淳がふわりとした笑顔を称えて立っていた。
はポカリを口に含んで


「知っててくれたん?豊玉のマネージャーさん。さん、やったね」
「……え、私のこと……」
「知っとるよ、南の、彼女?やろ?」
「え、ちゃう、けど……」
「は?ホンマにちゃうん?大栄では噂になっとるで。南に美人マネの彼女が居るって。
ま、まさかあの岸本の彼女ってこともないやろ?」
「つよちゃんとみのりんは幼馴染なんよ……」


の口から幼馴染という言葉が出ると土屋は破顔して、
カバンからメモを取り出すとさらさらと自分の携帯番号とアドレスを書き記した。


「南の彼女じゃないんやったら、堂々とアプローチできるわ」
「土屋くん……?」
「試合で始めて会うたときから一目惚れしてもうてん。
まずはオトモダチからっちゅーことで、どない?これ、ボクのメアドとケー番」
「お友達……からだったら、ええよ……?」
「せやったら、まずはボクのことあっくんって呼んでみよか?」
「へっ?」
「南は『つよちゃん』、岸本は『みのりん』ボクだけ土屋くんじゃ可哀想やろ?」
「……え、でも、あの」
「今日からボクら、……友達やんな?」
「うん……、あの……えっと……あっくん?」


土屋は酷く嬉しそうに


「なぁに?ちゃん」


スマートに名前を呼ぶ土屋に、の顔はボッと赤くなった。


「何やっとんねん、
「ワレ朝っぱらからナンパなんぞかましよってヨユーやな土屋」


もう一本遅れた電車で駅に到着してきた南と岸本は、
見慣れた二人に憤りを感じ土屋を牽制するように駆け寄った。


「あ、つよちゃんにみのりん」
「お前が呼ぶな、土屋!……、このむっつりスケベになんぞされよったんか?」
「違うんよ、あっくんがな、気分悪くなったんを助けてくれてん」
「なんやその『あっくん』っちゅーんは!!気色悪い!!お前が言わせたんか!?オラ!」


南と岸本はギャーギャーと土屋に因縁をつけるが、
土屋は一切動じることもなく、涼しい顔をして、


「豊玉のナイトが二人きよったからなー、ボクもう行くわ。
ほなちゃん、お大事にな?またなー」
「二度と来るなや!!ボケェ!!」


土屋はそのまま笑いながら、去っていってしまった。
そのあとすぐ国体の大阪選抜メンバーが集まった後、
予想以上に火花を散らす土屋と南、岸本が、
別の意味で大栄対豊玉戦を繰り広げたのはまた別の話。










第一印象から決めてました。

(ワレ、最近とメールなんぞしよって……)
(ミノリちゃんになんか関係あるん?)
(土屋ァ、ワレ俺らのに手ぇ出してただで済むと思うなや……?)
(へーへー、つよちゃん怖いわぁ。せやけどどっちの彼女でもないんやろ?)
(ぐっ……)
(せやったら、お前らのちゃん、からボクのちゃんにしてもええよなぁ?)
(あかん!!土屋、ダメ!絶対!!)
(アハハ!どこの標語やねん)