湘北高校男子バスケットボール部 三井寿 様
丁寧に書かれたその封筒のあて先に同男子バスケットボール部マネージャーは
本日何回目になるだろうため息を漏らした。
「……山王に勝って、流川が全国区っていうのは何となく想像ついてたけど……まさか三井先輩にまで……」
はダンボール一杯の手紙を抱えて、部室へと向っていた。
先日行われたインターハイ、湘北高校は無名校ながらバスケットボールをするものなら
誰でも知っている、そして憧れの高校・山王を下してからというもの、いわゆるファンレターが
高校に送られてくるようになった。
一番人気の流川を筆頭に赤木やリョータ、まさかの桜木(主に初心者男性から)にまでだ。
先の封筒のあて先である三井寿も、インターハイ後から可愛らしい封筒に可愛らしい文字の手紙が
流川に次いで送られてくるようになっていた。
「確かに山王戦は私だって感動したけど……、なんか複雑だ。
きっと盛りに盛られた詐欺プリクラとか同封しちゃってるんだろうな……。
三井先輩騙されやすそうだからなぁ……、好みとか言って付き合っちゃうのかなぁ」
は、制服のポケットから一通の封書を取り出した。
それには他の女の子と同じように、三井の名前が書かれている。
いつも渡せなかった、三井への手紙だった。
はいっそファンレターにまぎれさせてこの手紙を入れてしまおう。
そんなことを思って、選手ごとにまとめたダンボールの中に自身が書いた
ファンレターともラブレターともつかない手紙を三井へのファンレターの束に
紛れ込ませた。
「木を隠すなら森だな、うん」
「おい、何やってんだ?」
「ぎゃああ!!み、みみ、三井先輩じゃあーりませんか!」
「ぶはは!!お前チャーリー浜か!!」
いきなり現れた三井寿、ご本人には肩をビクッとさせて驚き、
某新喜劇の役者の持ちギャグまで披露してしまった。
「(うう……、また失態を……)」
「お前そのダンボール、流川のファンレターか?俺様のはないのか」
「ありますよ、今回も流川の次に多かったです……随分嬉しそうですね」
「そりゃあ、見られてるっていうのに悪い気はしねぇよ」
嬉しそうに悪戯な笑顔を向けてきた三井がには腹立たしく思えて
ダンボールを部室に投げつけるように置くと
「じゃあ、この中から可愛い女の子でもみつけてどうにでもなれってんですよ!!
この元ヤン!!遊び人!!」
「あ!おい、!!……ん?これ……」
三井の制止も聞かず、は脱兎の如く屋上まで走り去って行った。
「何八つ当たりしてんだろ、あああ……最低だ、私。あ、しかも手紙抜いてくるの忘れた。
あああー……もう踏んだり蹴ったりじゃん……あんなの読まれたら、部活行けない……」
「あー、最悪だよ、てめぇは!探し回ったじゃねぇか!」
が弾かれたように振りかえると、そこにはバスケ部と思えないほどに
息を乱しまくった三井が立っていた。
「ゼェゼェ……俺に来たファンレター、……スゲー好みのヤツがいた」
「……聞きたくないです、めんどくさい」
「俺のこと、上っ面だけじゃなくてスゲーよくわかってくれてんだよ、その子」
「聞きたくないって言ってるじゃ、」
「っていう湘北の2年らしいんだけど、俺、返事書こうかなって思ってな」
木を隠すなら森に
(あー、やっぱ返事書くのはやめとくわ)
(あの、三井先輩……?)
(俺、字きたねぇし。幻滅されたくねぇもんな)
(……まぁ、キレイじゃないですもんね)
(だから、面と向って言うわ。俺にはお前のファンレターが一番クるわ)
(好きだぜ、)