バタフライ、今日は、いままでの……


「む、サンが歌っている……」
「……相変わらずきれいな歌声だ……」


ふにゃっと顔を崩して桜木花道は、練習後のシャワーを浴びている。
実業団の選手になり、全日本に召集され、
かつてのライバルや、チームメイトも居る中、
桜木は日々バスケットの練習に明け暮れていた。
午前中は所属するチームの会社で仕事、午後からは練習。
ごくたまに全日本の召集で遠征。
そんな中でも、ようやく結ばれた二つ年上の女性、
の住むアパートに来ることはもはや、
桜木のライフワークと化している。
は赤木や木暮、三井の同期に当たり、
湘北高校でマネージャーをしていた。
どうやら高校時代、三井が狙っていたようだが、
桜木がなんとか彼女の隣にいる権利を奪い取った形だ。
二人の年齢も初めて会った時は16歳、と18歳だったが、今は23歳と25歳。
時の流れは早いものである。


「花道くん、ジャージおいておくね」
「あ、ハイ!あの、サン!」
「何?」


脱衣所と、お風呂場の薄いドア一枚で仕切られた二人は、
シャワーの音にかき消されまいと少し大きな声をだして話を続ける。


「今歌ってた歌、何て言う歌ですか?」
「え、どうかしたの?」
「なんか、前に聞いたことある歌だなぁと……」
「ああ、CMソングだったもんね、ぜくしぃの」
「な、せくしぃ!?さん、アレはそんな不埒なCMだったんですか!?」
「せくしぃじゃなくて、ぜ・く・し・ぃ!結婚情報誌だよ」


「ケッコン!」


結婚。
確かには25歳、そろそろそういうことも考えないとと思う年頃に。
桜木はまだまだ23歳、こうしてと一緒にいられるだけで幸せと
感じてしまうようなお子様脳の持ち主。
それでも、結婚という単語が耳に入れば、いくら「あの」桜木花道といえど
意識しまくってしまうわけで。


(ぬぬぬ、結婚、ケッコン、サンと毎日一緒に……?
いってらっしゃいのチューや、あんな事やこんなことを……!?
ぐああああ!!こ、これは神の啓示なのだな!?サンに、
男としてのケジメをつけろということなんだな!?)


「花道くーん?大丈夫かねー?ってうわああ!!」


桜木はまだ泡ののこる身体で激しくドアを開け、を抱きしめた。


「あの!!サン!!」
「うわああ!!ふ、服、服を着なさい!!全裸とは何事!!泡残ってるし!!」


はバタバタと桜木の身体を振りほどこうとするが、びくともしない。


さん!せくしぃ、買いに行きましょう!」
「いや、だからぜくしぃ……」
「ケッコンしましょう!!今すぐ!!」
「いや、だから今すぐは無理……って……なんですと!?」


バタフライ




(あーあ、服も頭も泡だらけ……)
(す、スミマセン……お体お流しします……)
(ばか者……)
(あの、それで、お返事は?)
(もう、OKに決まってるでしょ!……ムードも何もあったもんじゃないけど……)